CET INSIGHTS ─ 第4回
2026年9月30日まで

IBM i サポート終了。
「乗り換え」の前に、知っておきたいこと。

基幹システムの選択肢を、フラットに整理する / 読了 約14分

「IBM i(旧AS/400)のサポートが、まもなく切れる」。そう聞いて、慌てて別のシステムへの乗り換えを検討していませんか。

結論から言えば、乗り換えは選択肢の一つであって、唯一の答えではありません。この記事では、特定のサービスを売り込むのではなく、いま取りうる選択肢を、メリットとデメリットの両面から、できるだけフラットに整理します。読み終えたとき、「自社はどう動くべきか」の判断軸が持てる——それをゴールにしています。

01 / The Deadlineまず、何が・いつ終わるのか

正確に整理することから始めます。よく「AS/400が終わる」と言われますが、これは正確ではありません。終わるのは、ハードウェアでもプラットフォームでもなく、特定のOSバージョンに対するサポートです。

2026.9.30
IBM i 7.3 バックレベル・プログラム支援サービスの終了
  • IBM i 7.3の標準サポートは、すでに2023年9月に終了しています。いま2026年9月に切れるのは、その後の延長措置である「バックレベル・プログラム支援サービス」です。
  • この延長サービスは1年ごとの契約で、年度ごとに料金が上がっていきます。位置づけとしては「新しいOSへ移行するまでの、一時的なサポート」です。恒久的な解決策ではありません。
  • さらにその先には、次のバージョンであるIBM i 7.4の標準サポート終了も控えています(時期はIBMの判断によりますが、2026年9月~2027年とみられています)。つまり「一度きりの締め切り」ではなく、波として続いていきます。
用語の整理:「AS/400」と「IBM i」
1988年に発表された「AS/400」は、改称を経て、現在はハードウェアが「IBM Power」、OS(基本ソフト)が「IBM i」というブランドに整理されています。長く「AS/400」の愛称で親しまれていますが、現在の正式なOS名称は「IBM i」です。この記事では原則「IBM i」と表記します。

押さえておきたいのは、プラットフォーム(IBM i / Power)そのものが消えるわけではないという点です。サポートが切れても、システムを動かし続けること自体は可能です。ただし、OSのセキュリティ修正が提供されなくなるため、脆弱性が放置され、保守コストは上がり、監査で指摘されるリスクが生じます。だからこそ、多くの企業が「このままでいいのか」を、いま考え始めているのです。

02 / The Real Problemなぜ、これほど騒がれるのか

実は、本当に深刻なのは「サポート終了」そのものよりも、その裏にある人の問題です。IBM iを扱える技術者が、構造的に減り続けている。これがサポート終了問題の本質です。なぜそうなるのか、連鎖をたどってみます。

① RPGは、IBM i でしか動かない独自言語
IBM iの主要言語であるRPGは、このプラットフォーム特有のものです。汎用的なWeb技術やクラウドとは技術系統が異なり、学んでも他で直接は活かしにくい。
② だから、若手技術者が集まらない
新しい技術に関心の高い若手は、将来性を見て他のプラットフォームへ流れます。結果、RPGを学ぶ人が増えず、技術者は高齢化していく。
③ ベテランの引退で、知識が失われる
システムを知り尽くしたベテランが定年を迎える。後継者はおらず、ドキュメントも残っていないことが多い。引き継ぎができないまま、知識が会社から消えていく。
④ システムがブラックボックス化する
「何が、なぜ、どう動いているか」を完全に把握している人がいなくなる。怖くて誰も触れない。改修も移行もできず、塩漬けになる。

この連鎖は、一社の努力で止められるものではありません。RPGという言語が独自である以上、構造的に進んでいきます。だから「サポートが切れる2026年9月」は、ある意味きっかけにすぎません。本当の締め切りは、自社のベテランが引退する日かもしれないのです。サポート終了を、この人の問題を考え直す機会と捉えるほうが、本質的です。

03 / Your Optionsあなたが取れる、4つの選択肢

慌てて結論を出す前に、選択肢を並べてみましょう。大きく4つあります。それぞれに向き・不向きがあり、どれが「正解」かは会社の状況で変わります。

01そのまま使い続ける(延長サポート)先送り

延長サポートを契約し、現状を維持する。

向いている会社
あと1~2年で、別の理由でも刷新を予定している場合。
注意点
料金は年々上がり、根本解決にはならない。「時間をお金で買う」一時しのぎ。
02OSをバージョンアップする(7.5 / 7.6へ)延命

新しいIBM iバージョンへ上げ、Power環境を継続する。RPG資産はそのまま活かせる。

向いている会社
IBM iの資産と安定性を、今後も活かし続けたい場合。
注意点
バージョンアップを担える技術者が社内にいるか。ハード老朽化や人の問題は別途残る。
03別のERP・システムへ全面刷新乗り換え

SAP・クラウドERPなど、まったく別のシステムへ移行する。

向いている会社
業務そのものを標準化・刷新したい。十分な予算・期間・推進体制がある場合。
注意点
数億円・数年規模になりやすい。業務停止リスクと現場の混乱を伴う。後述の「つまずき」に注意。
04作り直さず、API化して活かす活かす★ 多くの中堅企業に現実的

IBM iは止めず・触らず、外からAPIで包んで、スマホ・クラウド・AIと連携させる。基幹はそのまま、周辺だけを少しずつ現代化していく。

向いている会社
「乗り換える予算も人もないが、このままでは不安」という、多くの中堅企業。
特徴
全面刷新と比べて低コスト・短期間・業務停止リスクなし。30年分の資産とベテランの判断を、捨てずに次へ運べる。
補足すると、③と④は二者択一ではありません。「まず④でAPI化して時間を稼ぎ、業務に余裕ができてから一部を③で刷新する」という組み合わせも現実的です。大切なのは、「サポートが切れる」と「全部作り直す」を、反射的にイコールで結ばないことです。

04 / At a Glance選択肢を、表で見比べる

4つの選択肢を、判断に効く5つの観点で並べました。横にスクロールできます。あくまで一般的な傾向で、実際は会社の規模やシステムの状態で変わります。

観点① 延長サポート② OS更新③ 全面刷新④ API化して活かす
初期コスト低(年々上昇)非常に高い小さく始められる
期間即時数ヶ月数年がかり短期・段階的
業務停止リスクなし大(切替時)なし(並行稼働)
必要な人材不要IBM i技術者新システムの専門人材外部に委ねられる
根本解決になるかならない一部なる(やり切れれば)資産を活かして前進

表だけ見ると④が万能に見えるかもしれませんが、そうではありません。業務プロセスそのものを抜本的に変えたい会社にとっては、③の全面刷新こそが正解です。④はあくまで「動いている資産を活かしながら、止めずに前へ進む」ための現実解です。次の章で、③を選ぶ場合に陥りがちな点を見ておきましょう。

05 / Pitfalls乗り換えで、よくある3つの「つまずき」

全面刷新(③)は、成功すれば大きな成果になります。一方で、現場でよく聞く「つまずき」も知っておいたほうがいい。これらは、乗り換えを否定するためでなく、選ぶなら備えておくべき点として挙げます。

1
一括移行で、現場が止まる
一気に新システムへ切り替えると、現場が新しい操作に慣れるまで、一時的な生産性の低下は避けられません。繁忙期と重なると、業務そのものが回らなくなることも。段階的に進めるほうが安全です。
2
仕様が分からず、機能が「移行漏れ」する
ブラックボックス化したシステムを、中身を把握しないまま移行すると、「実は重要だった処理」が新システムに引き継がれず、後で業務が破綻する。移行前の現状把握(可視化)を飛ばすと、ここで事故が起きます。
3
移行を支える人がいない
IBM i技術者の高齢化で、そもそも移行プロジェクトを支援できる人材が不足しています。旧システムを理解する人と、新システムを作る人の間で、知識のギャップを埋める時間も必要。人の手当てを甘く見ると、計画が崩れます。
これらは「全面刷新をするな」という話ではありません。やるなら、①現状把握から始め、②一括ではなく段階的に、③人の手当てを含めて計画する——この3点を外さなければ、リスクは大きく下げられます。そして実は、この3点をすべて満たしやすいのが、次に説明する④のアプローチなのです。

06 / Why "Keep It"なぜ「活かす」が現実的な企業が多いのか

市場では「この機会に乗り換えを」という声が大きく聞こえます。けれど、ここで見落とされがちな事実があります。IBM iは、決して"時代遅れの劣ったシステム"ではないということです。

IBM iには、明確な強みがあります。数億件規模のデータも高速にさばくバッチ処理能力。そして、ウイルス被害が極めて少ない堅牢性。長年、企業の基幹を任せられてきたのには理由があります。問題なのはIBM iの性能ではなく、「外の世界(スマホ・クラウド・AI)と繋がっていないこと」と「人がいなくなること」なのです。

だとすれば、取るべき戦略は見えてきます。強い"守り"はそのまま活かし、"攻め"だけを外で行う。これは近年、SoR(記録のシステム)とSoE(攻めのシステム)を分ける考え方として整理されています。

SoR ─ System of Record
守り:IBM i はそのまま
受発注、在庫、会計といった「絶対に止められない記録」。堅牢で高速なIBM iの得意領域。ここは無理に動かさず、活かし続ける。
SoE ─ System of Engagement
攻め:外で新しいことを
スマホ入力、データ分析、AI活用、顧客接点。変化の速い"攻め"の領域は、API連携で外のモダンな環境に任せる。

この「守りは活かし、攻めは外で」を実現する手段が、API化です。IBM iを止めず・触らず、外からAPIで包んであげる。すると、これまで孤立していた基幹データが、スマホからもAIからも使えるようになる。全面刷新のような大手術をせずに、システムは"開かれた"資産に変わります。

ただし、注意も必要です。最近は「IBM iを活かす」という言葉を掛げるサービスが増えてきました。データを外部へ連携させる(ETL)だけのものも多い。本当に価値があるのは、データを繋いだ"その先"です。スマホの業務アプリにする、AIに過去データを学習させて判断を助けさせる、ベテランの頭の中にある判断ロジックを少しずつ仕組みに移していく——。「繋いで終わり」ではなく、業務が実際に楽になるところまで伴走できるか。そこを見極めることが大切です。

「サポートが切れる」ことへの対処と、
「人がいなくなる」ことへの備え。
本当に効く一手は、その両方を同時に解くものです。

07 / Decision Guide自社はどれを選ぶべきか

最後に、判断の手がかりを置いておきます。次の項目に多く当てはまるほど、③全面刷新よりも、④API化して活かすアプローチが向いている可能性が高い、と考えてください。

「活かす」が向いているサイン
  • IBM i(AS/400)は、いまも問題なく業務を支えている
  • システムの仕様書がない、または中身を完全に把握している人がいない
  • RPGを扱えるベテランが、退職・定年に近づいている
  • 全面刷新の見積もりを見て、金額や期間に現実味を感じられなかった
  • スマホやAIと連携させたいが、基幹が古くて繋がっていない
  • 現場が、長年慣れた今の業務フローを大きく変えたくないと感じている
逆に、「この機会に業務そのものを抜本的に標準化したい」「十分な予算・期間・推進人材がある」という場合は、③の全面刷新が向いていることもあります。自社がどちらかを、まず冷静に見極めることが先決です。

08 / First Stepどの道を選んでも、最初の一歩は同じ

①~④のどれを選ぶにしても、最初にやるべきことは共通しています。いまのシステムに何が入っていて、何が動いているのかを、正確に把握すること。これがないまま乗り換えを決めると、先ほどの「つまずき②(移行漏れ)」が起きます。逆に、現状さえ見えれば、「この部分は活かす」「ここは作り直す」という冷静な判断ができます。

仕様書がなくても大丈夫です。いまは、AIの支援によって、稼働中のコードやデータ構造を解析し、システムの全体像を可視化できる時代です。「誰も中身が分からない」状態からでも、地図を描くことから始められます。

2026年9月という日付は、確かに一つの区切りです。けれど、それに追われて慌てて決めるのではなく、この機会に「自社の基幹システムと、どう付き合っていくか」を冷静に考え直す。それが、後悔しない進め方だと、私たちは考えています。

まず、御社のシステムの「現状」を知ることから。

2分のセルフ診断で、リスクの大きさをその場で確認できます。

仕様書がなくても、API化して活かせるかどうか、無料の初期診断でご提案します。

2分でリスク診断する → Legacy Bridge を見る
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