CET INSIGHTS  /  事例で見る深い業務自動化 ①

中堅自動車部品メーカー A社の場合
ベテランの頭の中を、IBM i を止めずに継承する

「あの人がいなくなったら、工場が回らない」——多くの製造業が抱える、静かで深刻な課題です。30年動き続けるIBM i(AS/400)、そしてベテラン生産管理者の頭の中にある膨大な判断ルール。この2つをどう次世代へ引き継ぐのか。中堅自動車部品メーカーA社を想定モデルに、CETの「深い業務自動化」を具体的にたどります。

想定モデルケース 株式会社CET  |  製造業 / IBM i 環境  |  読了目安 9分
!本記事の「A社」は、製造業で典型的に見られる状況をもとにした架空の想定企業です。実在の導入先ではありません。記載の数値はすべて、CETが一定の前提のもとで算出した試算値であり、実際の効果は企業ごとに大きく異なります。
The Company

A社は、どこにでもある「優良な中堅メーカー」

まず、A社がどんな会社かを描いておきます。読んでいて「うちと似ているな」と感じる方が多いはずです。それくらい、典型的な姿にしています。

中堅自動車部品メーカー A社 想定モデル
事業
エンジン・駆動系の精密部品製造(Tier2サプライヤー)
年商
約200億円
従業員
約400名(うち生産管理 数名)
基幹システム
IBM i(AS/400)を30年以上運用・RPG製
取引形態
多品種少量・JIT(ジャストインタイム)納入
差し迫った事情
生産管理のベテランが来年定年退職

A社は、品質でも納期でも取引先から厚い信頼を得てきた優良企業です。その信頼を長年支えてきたのが、勤続38年・生産管理一筋のベテラン、仮にDさんと呼びましょう。Dさんは、どの注文を優先し、どの設備にどの部品を流し、どこで材料の歩留まりを読むか——そのすべてを、頭の中だけで判断してきました。

そしてもう一つ、A社を30年支えてきたのが、IBM i 上で動くRPG製の生産管理システムです。一度も大きく止まることなく、毎日の受注・生産・出荷を回し続けてきました。

このDさんとIBM i、A社の両輪が、いままさに「継承」の問題に直面しています。

The Problem

A社が抱える、3つの「継承できない」

1
ベテランの頭の中が、引き継げない
Dさんの判断は、マニュアルになっていません。「この取引先の"急ぎ"は本当に急ぎ」「この材料ロットは歩留まりが落ちやすい」といった勘所が、推定で約2万件。後任に口頭で伝えきるのは、現実的に不可能です。
2
IBM i を、止められない・作り直せない
基幹システムを止めれば全工場が止まります。かといってRPGを書ける技術者はもう社内にいません。フルリプレースは3年・数億円がかりで、移行リスクも大きく、踏み切れません。
3
自動車部品ならではの厳しさが、属人化を深める
多品種少量、頻繁な設計変更(設変)、JITの厳しい納期。変数が多く例外が日常的に起きるため、判断はますますDさん個人に集中し、誰も全体を再現できなくなっています。
問題の本質 A社の課題は「人手不足」ではありません。会社の競争力そのものが、退職間近の一人の頭の中に閉じ込められていること。これは多くの中堅製造業に共通する、静かで深刻なリスクです。
Why Not Rebuild

なぜ「全部作り直す」では、解けないのか

ここで多くの会社が「いっそ新しいシステムに刷新しては」と考えます。しかし、A社の課題はそれでは解けません。理由は2つあります。

理由1:作り直しても、Dさんの判断は移らない。 新しいシステムを入れても、そこに入るのは「データ」と「決まった処理」だけです。Dさんの2万件の勘所は、新システムの仕様書には書けません。器を新しくしても、中身の知恵は移らない。問題の本丸が手つかずのまま残ります。

理由2:止めるリスクと費用が、効果に見合わない。 30年動いてきたシステムを止めて作り直すのは、走っている車のエンジンを高速道路上で載せ替えるようなものです。3年・数億円をかけ、その間ずっと事故のリスクを抱える。中堅企業にとって、この賭けは重すぎます。

本当に継承すべきは「システム」ではなく、
Dさんの判断と、それを動かし続ける仕組み

だからCETは、作り直しません。IBM i は止めず・触らずそのまま動かし、その横にAIエージェントを置く。そしてDさんの頭の中を、AIへ移していきます。これが「深い業務自動化」の考え方です。

The Approach

CETはこう解く:止めずに、横から、育てる

A社へのアプローチは、4つの局面で進みます。いきなり全自動にはせず、信頼を一段ずつ積み上げます(この進め方の詳細は別記事「AI業務自動化を育てる4つの局面」をご覧ください)。

接続(点火)
IBM i に横から接続。RPGのコードとデータベースを解析し、Dさんが使ってきた情報をAIが読める形にする。IBM i は一切止めない。
1
データ確認(シャドー運用)
受注・生産実績・在庫データが正しく取れるか検証。IBM i特有の文字コードや項目のクセを、実行前にすべて潰す。
2
判断を見せるだけ
AIが立てた生産計画案を、Dさんの判断と突き合わせる。「自分ならこうする」というズレを拾い、AIを補正。Dさんの暗黙知が、ここで構造化されていく。
3
段階的に任せる
定番品・少量の計画立案から自動化を開始。信頼に応じて範囲を拡大。設変対応や重要顧客の判断は、当面Dさんと後任が確認する。
4
見守り続ける
稼働後も監視・改善・拡張を継続。Dさん退職後は、AIと後任が二人三脚で回す体制へ。
Two Pillars

A社で実現する、深い自動化の2本柱

A社のケースで中心になるのは、次の2つです。単なる事務の自動化ではなく、判断そのものの継承が主役になります。

PILLAR 01

ベテランの暗黙ルールを、継承する

AI支援によるDさんへのインタビューと、過去5年分の生産指示・実績データの分析を組み合わせ、約2万件の判断ルールを構造化します。「なぜそう判断したのか」を理由付きで言語化するため、Dさん本人すら気づいていなかった判断パターンまで掘り起こせます。

PILLAR 02

生産計画の最適化判断を、代行する

受注・設備の空き・材料在庫・人員・取引先との関係性を同時に考慮し、毎朝の生産計画案を自動で立案します。多品種少量・JITという厳しい条件のなかで、Dさんが頭の中でやっていた優先順位付けと段取りを、AIが再現します。

具体例ある朝の生産計画

「B社向けエンジン部品が前倒し要請。だが同じ設備でC社向けも仕掛り中。材料ロットは歩留まりが読みにくい新ロット」——こうした状況で、AIは過去のDさんの判断パターンに照らし、「B社を優先しつつC社には◯時間以内に連絡」という案を理由付きで提示します。Dさん(やがては後任)は、その案を承認・修正するだけ。判断の質を保ったまま、属人性だけが外れていきます。

Estimated Impact

想定される効果(試算)

A社のような前提で深い業務自動化を導入した場合、CETは次のような効果を試算しています。あくまで一定の前提に基づく試算であり、保証された数値ではありません。

約2万件
継承・構造化される
暗黙の判断ルール
13–18
投資対効果
(3年・試算)
約11億円
3年間の
想定創出価値

この試算は、(1)生産計画立案そのものの工数削減、(2)段取り最適化による設備稼働率の向上、(3)欠品・納期遅延に伴う機会損失の低減、(4)そして何より技術継承リスクの解消——これらを合算したものです。とりわけ4つ目は金額に換算しにくいものですが、「Dさんが退職した瞬間に競争力が失われる」という事態を避けられる価値は、A社にとって最も大きいと私たちは考えています。

事務作業の削減にとどまらない。
会社の競争力そのものを、次の世代へ手渡す。
Summary

「あの人がいないと回らない」を、終わらせる

A社の物語は、特別な会社の話ではありません。30年動くIBM i と、退職間近のベテラン。この組み合わせは、日本の中堅製造業のいたるところにあります。

CETがやることは、その古いシステムを止めず・触らずに活かしながら、ベテランの判断をAIという「もう一人の担当者」へと継承していくことです。器は変えず、知恵だけを未来へ運ぶ。それが深い業務自動化の本質です。

そして、最初の一歩は小さくて構いません。月30万円の1業務から始め、効果を確かめながら育てていけます。

QうちはIBM iではなく別の古いシステムだが、同じことはできる?
Aできます。本記事はIBM iを例にしましたが、CETのアプローチはCOBOL・VB6・古いERP・クラウドERPなど、環境を問いません。次回のシチュエーションでは、クラウド環境(建設業)のケースもご紹介します。まずは初期診断で、御社にとって最も効果の高い業務を見極めるところから始めます。

※ 本記事の「A社」および登場人物は架空の想定です。記載の数値・期間・効果はすべて、CETが一定の前提で算出した試算値であり、実在の導入実績ではありません。実際の内容・効果は、お客様の業務やシステム環境により異なります。具体的なご提案は初期診断にて個別に行います。

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第3回
技術
オンプレの古いシステムを、API化して、その先へ
技術で見る「接続」のすべて / どう繋ぐのか
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「あの人の頭の中」、引き継げていますか?

まずは初期診断から。御社のベテランの判断と古いシステムを、

どう未来へ継承できるか、具体的にご提案します。

株式会社CET